トラストシティニュース
2017.11/08
Gotenyama Creator’s File① アレクシー・アンドレさん
アートとテクノロジーの街、御殿山。ここで働く人にスポットを当て、この街の魅力やここでのお仕事、これからの夢などを語っていただきます。第1回は、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の“アート系”担当、アレクシー・アンドレさん。15年前に来日するまで日本語は一切できなかったというのが信じられないほど、流暢な日本語。笑いを交え、遊び心あふれる語り口でお話をしてくださいました。
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絵が描けなくても『Omoiiro』があればアーティストになれる!
「僕は絵を描きたいけれど、描けない人間なんです。だからパソコンに描いてもらう。コードを書いて、コードに絵を作ってもらいます」というアレクシー・アンドレさん。ご自身のインスタグラムでは「東京在住のアーティスト。実は博士」と名乗り、パソコンで作った絵(アニメーション動画)を公開しています。
「毎日ひとつ作らなきゃいけないという、無駄なチャレンジをしていて(笑)。絵の色を手動で決めるのが大変になってきて、自分用にプログラムした『Omoiiro(オモイイロ)』を裏で使って、色を作っています」
『Omoiiro』とは、アンドレさんが開発したカラーパレット抽出システム。写真や絵などの色の配色を自動的に抽出してパレットを生成する手法です。10年前から研究を重ねてきたシステムですが、2015年の秋冬にISSEY MIYAKEとのコラボを実施。デザイナーや各地のスタッフが撮影したお気に入りの写真から色味を抽出してバッグにするというアイデアを展開しました。
インタビュー中、ふと目に入ったアンドレさんのノートの表紙は、きれいな色合いのストライプ模様。これも『Omoiiro』を使って抽出したもの。使っているうちにはがれて白くなってしまったところは、こうしてペンで黒く塗っているそう。日々手を加えることで、さらに愛着が深まっているようです。
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参加者の色と想いを抽出して御殿山に投影
アンドレさんは、東京工業大学の大学院生のときから、アルバイトでソニーCSLに通っていました。東急線で五反田駅を利用していたことがあり、御殿山の存在を知ったときは五反田とのギャップに驚いたといいます。
「緑が多く、広々としていて豊かな感じ。品川には新幹線も通っていて交通が激しいのに、そこに森があるなんて!」
その森を舞台に、「GOTENYAMA ART & TECHNOLOGY WEEK 2017」では訪問者参加型のインスタレーションを仕掛けます。
投稿された写真から抽出した色味を滝に投影する“Omoiiro – 流れ”。
「透明で色のない滝に、お客さんが持ってきた色を掛け算します。元の写真をわかっているからこそ伝わる価値ですが、写真を持ってきたお客さんは投影されたものを見て『自分のおかげで色が変わった』と思えるでしょう」
こちらは夜間のコンテンツですが、昼間でも楽しめるのが“Omoiiro – 鏡”。その前を通った人の色が抽出されて映し出されるので、例えば赤い服を着ている人がそこを歩くと、パネルには赤い色が現れ、『あれは自分だ!』とわかると人は立ち止まってくれます。
「基本的に僕が作っているものは、使う人の特徴を使ったり、何かをもらったりして取り入れ、また返すというサイクル。今は“色”について集中して取り組んでおり、こちらが一方的に提供するのではなく、一緒に作っていくスタイルです」
アンドレさんがひとりで完成させた作品を提供するのではなく、参加者から色をもらって投影する。それが自分の色だとわかった参加者は「自分のもの」だと思い、投影された作品に別の価値観、愛着が生まれます。写真を撮ったり、SNSで拡散したりもするでしょう。
「僕の作った『Omoiiro』のシステムがなければできないことなので、本当はお客さんのものではないんですけど、『あれはオレのものだ』といいたくなる。“あれオレ詐欺”ですね(笑)。でも、お客さんのおかげでできたものだから、僕だけのものでもない。そこがおもしろいところです」
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見る人の気分でストーリーが変わる映画は作れるのか?
大学院進学のため、フランスから日本へやってきたアンドレさんの子ども時代は、ゲーム少年。ゲーム好きは家族が生まれるまで続き、“クソゲー”といわれるものがなぜウケるのかという興味が研究につながりました。ソニーCSLの中では「アート系」「エンタメの人」。これからの遊びはどういう形がウケるのかを考える、次世代型のエンタテインメントを研究テーマとしています。
「人はなぜ楽しくなるのか?なぜハマるのか? 人がおもしろいと思うことを探す研究ですね。真面目にふざけて、エンタメ界全体にどう応用すればいいのか考えるのが僕の研究です」
間もなくソニーで商品化される、キューブ型のシンプルな小さなロボットを含んだトイ・プラットフォームtoio(トイオ)は、アンドレさんがオリジナルコンセプトを提唱し、現在も開発にたずさわっています。持っているおもちゃの中にそのロボットに入れたり、ロボットの上に好きなキャラクターをのせたり、工作もできます。そうしてカスタマイズしたものを動かして、リアルに対戦もできます。子どもたちが実際に手指を動かして遊べ、ゲームの魅力にも負けてない!おもちゃにすぐ飽きてしまう子どもにも、ゲームのおもしろさは知っているけれど子どもにはまだやらせたくないと感じている親世代にも、ウケそうなコンテンツです。
「これからは、おもちゃやゲーム、音楽、映像まで含めて、自分にピッタリ作られたコンテンツがウケる」とアンドレさん。第三者が作ったものを一律に提供するのではなく、使うお客さんのその時の気分にピッタリのものを作りたいと言います。
「映画のストーリー展開まで、見る人のその日の気分でハッピーエンドになったり、ドラマティックになったり…お客さんの気持ちに合わせてエンディングを変えられるものを作りたい! 絵や色をコードで書いていると、ある程度自動生成できるし、音楽もAIが作曲するものを自動生成できるものが出てきたので、そこにお客さんの気持ちを入れるとどうなるのか、興味があります。専門外なのでわからないんですが(笑)」
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どうやったら“お客さん”を楽しませることができるかという目線を常に持っているアンドレさん。開発者の押し付けにならないものを研究しようという姿勢、遊び心あふれる発想からどんな作品が生まれるのか、今後の活躍にも目が離せません。
まずは「GOTENYAMA ART & TECHNOLOGY WEEK 2017」で体験できる『Omoiiro』プログラムを、みなさんの目で確かめてみませんか。