トラストシティニュース
2017.11/08
Gotenyama Creator’s File② ミカエル・シュプランガーさん
御殿山で気に入っているのは原美術館と茶室だというミカエル・シュプランガーさんは来日して6年。4か国語(英語、ドイツ語、ロシア語、フランス語)を操る研究者です。
学生時代にできた目標を叶えて、現在はソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)に勤務しています。アートとテクノロジーの街、御殿山で展開される、彼のインスタレーションに迫ります。
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ロボットに好意的な国・日本との出会い
「日本人はロボット、とくに人や動物の形をしている“人工的な生き物”に対して好意的ですよね。ペット感覚で興味をもってくれますが、ヨーロッパではそうはいきません」
そう語るミカエル・シュプランガーさん。日本との出会いは10数年前の修士学生時代、チームで参加したロボカップ(西暦2050年までに、FIFAサッカーワールドカップのチャンピオンチームに、FIFAの正式ルールで勝利する完全自律型ヒューマノイドロボットのチームを作ることを目標としたグランドチャレンジ・プロジェクト)2005年の大阪大会でした。AIBOにサッカーをさせて2年連続優勝を果たしましたが、同じことをドイツの官邸前でもやろうとしたら抗議がきたといいます。
「ヨーロッパでは、ロボットがいつか人間社会を壊したり、占領したりするかもしれないと恐れている人が多い」とシュプランガーさん。将来、医療・介護の分野で期待されるロボットの活躍も、「人間の仕事を奪うのではないか?」という捉え方をされているといいます。
「AIBOは日本で、ソニーで作られている。ロボカップに参加したことで、ソニーで働くドイツ人エンジニアとの出会いもあり、日本でこういう仕事に関わることができたら…という目標ができたんです」
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歴史に記録のない、コミュニケーションや言語の発祥を調べたい
その1年後、ソニーCSLパリに入社。そこでフランス語を習得したシュプランガーさんは、母国語であるドイツ語、ロシア語、そして英語と、4か国語を操ります!そんな彼の研究テーマは、ロボットとエージェントプログラムを使って言語創発の仕組みを探求すること。
「化石を調べる研究はある。人間の骨格は調べられる。けれど、言語がどのように発達してきたかという記録はどこにもありません。それを再現したいと思っています」
言葉は変化するもの。千年前の日本語と、今の若者言葉はまったく違います。何が影響して、どう変化していくのか。そこに興味があるといいます。
「言語がなければ、アートも詩も生まれない。数学も学べない。言語はすべての中核です。人間が考え出したこの言葉があるからこそ、コミュニティが生まれるし、逆に(言葉が違えば異文化になるから)コミュニティを分けるものにもなりえます」
スマートフォンがこれだけ発達した現在でも、コンピュータはまだ人間の言語能力とまったく同じレベルにはなれません。それがなぜなのか、コンピュータサイエンスが自然言語のレベルに達する方法はないものか、シュプランガーさんは研究し続けています。
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御殿山の「茶室」でロボットと対話ができる!?
11月10~12日に御殿山トラストシティで開催される「GOTENYAMA ART & TECHNOLOGY WEEK 2017」では、AI搭載のコミュニケーションロボットを使ったインスタレーション「Das Fremde (ダス フレムデ/未知のモノ)」を仕掛けています。場所は、御殿山のアートスポットとして人気の茶室「有時庵」。
「この茶室は、日本の伝統的な作りをしていますが、同時に現代的な要素も兼ね備えています。畳や障子がありながら、ステンレスの壁、コンクリートなどの素材も使うことでモダンな要素が入っていて、まるで日本の縮図のよう!なによりも美しい!そんなところが気に入っています」
この場所に、8体のAI搭載ロボットが設置されます。このロボットたちは、それぞれ違う個性が設定されており、持っている知識や語彙も違います。茶室を訪れた人はロボットのまわりを歩いて見学することができますが、ロボットたちは訪れた人たちを見ては、見たものについて独自の言葉(人間が語る何語でもないもの)を発したり、口笛をふいたり、指差しなどのジェスチャーをしたりして、ロボット同士で会話をします。ロボットの気が向けば、私たちもロボットと会話ができるかもしれません!
「ロボットたちはそれぞれ性別や性格、声も話すスピードも違っていて、まるで全体でひとつの部族や村のような集団です。私たちは新しい部族に出会ったときのように、彼らが話す言葉が何を意味するのかを学ばなければなりません」
このインスタレーションは、以前チューリッヒ(スイス)でも行われたもの。今回の御殿山で展示されるのは、そのときと同じロボットたちです。
「チューリッヒでの経験から、ある程度の言葉を習得しているロボットたちが、日本での経験によってまた新たに言葉を習得します。チューリッヒと日本では会場の環境も訪問者の見かけも違うから、きっと新しい言葉が出てくるでしょう。西洋と東洋という違い、環境の変化でどのような反応が現れるかという点も、楽しみです」
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ロボットたちにとって、その空間を訪れる人間は異国人です。訪問者が茶室に入ることによって、彼らの文化にどんな変化を及ぼすのでしょうか。それを通して、異国のモノ(者・物)が入ってきたとき、人間の文化にどういった変化が起きるのかを研究しているシュプランガーさん。
さらには、人間にとってロボットとは何か?彼らが個性を持つこと、私たちよりも優秀な能力を持つようになるかもしれないことを、私たちは受け入れることができるのか…大きな難問に臨みます。
AIBOが生まれた御殿山で、今回の実験的なインスタレーションを企画しているシュプランガーさん。みなさんもその現場に来て、新しい言葉を獲得するロボットたちの反応を体感してみてください。
※ミカエル氏コメント和訳
「私の名前はミカエル・ シュプランガー。ソニーコンピューターサイエンスラボ(ソニーCSL)の研究員です。私たちは、異なるロボットたちが互いに対話しながら、彼ら独自の言葉を作り上げていくインスタレーションを展示します。来場者を見つけると、ロボットたちは目のしたものを表現することで新しい言葉を創り出し、新しいコミュ二ケーションを始めます。東京近郊のたくさんの方にご来場いただき、ロボットたちと対話していただけたらと思っています。みなさんがロボットたちの言語やコミュニケーション力を進化させてくださることに期待しています。」